今回も臨床問題で、新作です。
みなさん苦手なマイナー科目の整形外科からの出題。
でも、かなり簡単な部類の問題に入るでしょう。
では、問題です。
問題
15歳、男性。数ヶ月前から右膝痛があったが、野球選手にて筋肉痛と思い様子をみていた。
しかし、最近になり同部に腫脹を認めたため受診。
理学的には、右膝外側を中心に腫脹があり、やや熱感がある。
軽度の可動域制限を認めた。
血液所見として、WBC増加とALPの著しい増加を認めた。
初診時の単純X線像(図1)に示す。
入院後に生検術を行い、図2のような病理組織像(HE染色、中拡大)を認めた。
図1
図2
問1 以下のうち、最も考えられる疾患はどれか、一つ選べ。
a 良性軟骨芽細胞腫
b ユーイング肉腫
c 骨巨細胞腫
d 骨軟骨腫
e 骨肉腫
f 軟骨肉腫
問2 この疾患につき正しい記述は次のうちのどれか。
a 放射線感受性が強い。
b 直ちに切断術の適応となる。
c 化学療法後に患肢温存を考える。
d 高齢者では認められない。
e 骨端部に好発する。
f 化学療法剤としてブレオマイシンを使うことが多い。
解答はMOREを押してね
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解説
10台歳台の思春期男性に生じた骨幹端部に発生した骨腫瘍である。
単純XP;
大腿骨遠位骨幹端(metaphysis)に境界不明瞭な濃淡が混成した病巣と、
Codman三角や、spicula、sun burst appearanceと呼ばれる骨膜を急激に押し上げる骨膜反応が認められる。
典型的sun burst appearance (
meddic.jp/sunburst_appearance から)
これは、ALP上昇とも関係があり、かなり急速に発生したもので、きわめて悪性度が高いことが予想がつく。
病理組織:核クロマチン濃染の目立つ腫瘍細胞(一部はmitosis+) が好酸性無構造な類骨 osteoid を形成している。
骨肉腫の病理組織学的特徴は、
悪性の骨形成性の紡錘形細胞が存在し、
類骨を形成することです。
一般的に多様な組織像を示す。
通常型骨肉腫に、骨芽細胞型、軟骨芽細胞型、線維芽細胞型という3つの亜型が存在するが、
この症例では未熟な骨芽細胞型と軟骨芽細胞が混在している感じを受ける。
ということで、
正解はc の osteosarcoma.
さて、
勉強のために一応鑑別診断
a 軟骨芽細胞腫 benign chondroblastoma
最もよくみられる良性骨腫瘍であり、10〜20歳に最も多く発症するが
長管骨の骨幹端でなく、
骨端付近に発症する傾向がある。
また、下の単純X潜像は下図の如くcystic shadowを呈する。

上腕骨近位に発生した典型的良性軟骨芽細胞種
ispub.com/IJOS/2/2/12397b ユーイング肉腫
20才以下に発生する悪性腫瘍で骨肉種同様に骨幹端には生ずる。
しかし、病理像は全く異なり、
小円形細胞がびまん性に増殖する像で、
腫瘍細胞の細胞質はグリコーゲンが存在し、
この蛋白の存在を証明する
PAS染色陽性であることが特徴である。
ユーイング肉腫の組織像 (Wikipediaから)
c 骨巨細胞腫 giant cell tunor (GCT) of bone巨細胞腫は osteoclastomaとも呼ばれ、
骨幹端から骨端(成長板の閉鎖後の骨端)を侵し、脊椎には少ないが仙椎に最も多い。
長幹骨に多いが、15%は非管状骨にも見られる。
悪性と良性の中間の態度をとる(2割が悪性)。
X潜像:石鹸泡状(soap bubble appearance:残存する骨梁のつくる隔壁による)の骨破壊が見られるが、
周辺の骨硬化や骨膜反応は少ない。
ただ、病理像は異なり、破骨細胞様多核巨細胞の増殖と類円形の単核細胞が特徴的なので、
本症例の組織像とは、かなり違う。

GCTで見られるsoap bubble appearance GCT histology
d 骨軟骨腫
外骨腫 exostosis とも呼ばれる良性骨腫瘍。
XP像が全く異なる。
矢印:腫瘤の頂上部には軟骨帽 cartilage cap と呼ばれる軟骨組織が認められる
http://gooday.nikkei.co.jp/atcl/disease/090823000/ より
f 軟骨肉腫 chondrosarcoma
骨肉種に次いで2番目に多い、骨に原発する悪性腫瘍で、発生原因は不明。
骨肉腫やユーイングは若い人に多い病気だが、軟骨肉腫は40、50歳以降に多く発生。
軟骨を作る細胞ががん化したもので、大部分は悪性度が低く、
時には顕微鏡で見た細胞の形や組織像からは良性の軟骨腫との区別がつかないこともある。
この場合にはX線像を参考に総合的に診断する。
これも、XP像が全く異なる。
骨盤発生した軟骨肉腫 のXP像
兵庫医大整形サイト:
http://www.hyo-med.ac.jp/department/orth/contents/examination/cartilage/ より
以上の説明からも、
問1の正解は
e 骨肉腫
原発性骨腫瘍の画像診断(年齢、部位、Xp)
について、よくまとまっていたので載せておきます。
(遠隔画像診断.jp/ から)
1)年齢からアプローチする
1-5歳 神経芽細胞腫の転移
5-10歳 LCH
10-20歳 ユーイング肉腫、骨肉腫、軟骨芽細胞腫(良性)
骨端線閉鎖後 骨巨細胞腫
30-50歳 軟骨肉腫
50歳- M&M(meta , multiple myeloma)
※原発性悪性骨腫瘍の頻度は、骨肉腫>軟骨肉腫>Ewing肉腫の順。
2)部位からアプローチする。
骨肉腫→膝関節(膝の上下)、上腕骨などなど
軟骨肉腫→骨盤骨、肩甲骨、胸骨など中心に近いところに出来る傾向あり。
骨巨細胞腫→長管骨の骨端、中でも橈骨遠位は特徴的。他、仙椎、膝周囲
単発性骨嚢腫→成人では腸骨翼、踵骨
■特殊な場所:
・脊椎は原発としては血管腫、骨軟骨腫、類骨腫、骨芽細胞腫、動脈瘤様骨嚢嚢腫
・脊椎後方成分→類骨腫、骨芽細胞腫
・仙椎:骨巨細胞腫、脊索腫が好発
・肋骨:原発としてはFD、動脈瘤様骨嚢腫、内軟骨腫、軟骨肉腫、骨髄腫など
・踵骨:骨内脂肪腫(内部に石灰化あり)、骨嚢腫(水がたまる)、pseudocyst
・骨幹端にほとんどの腫瘍ができる。なのでこれは覚えない。
・骨端では、軟骨芽細胞腫、骨巨細胞腫、関節症に起因する病変、感染、膿瘍
・骨幹では、ユーイング肉腫、リンパ腫。
3)単純X線所見からアプローチする
■骨吸収の辺縁
・骨吸収と正常骨の境界。
・活動性が低いのは境界明瞭、骨硬化縁あり。
・境界明瞭、骨硬化はなし。
・境界不明瞭。
・虫食い状、浸潤像
※下に行くほど活動性が高い。活動性が高いとは悪性のみではなく、骨髄炎やLCHでも見られる。
■骨膜反応
・単層性、shell型の骨膜反応=もっとも活動性が低い。
・卵の殻のように多層性、骨膜反応が途切れるCodman三角、棘状(spicula最も活動性高い)、放射状=活動性が高い。
悪性が多い。
■石灰化
・べったりしている(雲状)=骨基質(T1,T2低信号)の石灰化 代表例は骨肉腫
・つぶつぶ、点状、リング状の石灰化=軟骨基質(水を含むT2高信号)の石灰化:代表例は 内軟骨腫 enchondroma。
さて 問2 について
a 放射線感受性が強い。 ×
本腫瘍は、ユーイングと違い、放射線感受性は低い。
b 直ちに切断術の適応となる。 ×
biopsy後に治療方針を決定するが、
通常はHigh dose MTX + ロイコボリン、ないしシスプラチンなどの化学療法を行った後に
その反応性や、肺転移などの有無を調べて、患肢温存可能か否かを決定する。
即 切断とはならない。
c 化学療法後に患肢温存を考える。 ○
上述のように、 ○
d 高齢者では認められない。 ×
比較的稀だが高齢者症例は存在する。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai1951/46/2/46_2_358/_pdf 参照
e 骨端部に好発する。 ×
問1の解説で述べたように、骨端部 epiphysisでなく、metaphysis発生なので不正解。
f 化学療法剤としてブレオマイシンを使うことが多い。
通常は本薬剤はこの腫瘍で使用されることは少ない。
よって×
問2の正解は
cのみ
★ 腫瘍の放射線感受性
1)放射線感受性の高い腫瘍:
横紋筋肉腫を除く小児悪性腫瘍(神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、Wilms腫瘍、Ewing肉腫)、
精上皮腫・未分化胚細胞腫、リンパ上皮腫、ホジキン病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、など
2)放射線感受性の中等度の腫瘍:
(低分化)扁平上皮癌(上咽頭癌など)、髄芽腫、乳癌
3)放射線感受性の低い腫瘍:
奇形腫、神経膠腫、線維肉腫、骨肉腫★、悪性黒色腫、腺癌、腎細胞癌、甲状腺癌など
腺癌、骨肉腫、Ewing肉腫、扁平上皮癌、悪性黒色腫の中からも最も放射線感受性が高いものを選ばせる問題あり。
Ewing肉腫が高い感受性であること、
扁平上皮癌は高い感受性ではなく、中等度の腫瘍であることがわかっていないといけない。
なお、本症例のXPは、
金沢大整形外科のサイト http://ortho.w3.kanazawa-u.ac.jp/patnt/pages/brn_tmr.php からの引用。
病理組織像は、
病理コア画像 http://pathology.or.jp/corepictures2010/19/c06/02.html
からの転用であることをお断りしておきます。
上記サイトもクリックして、学習を深めましょう。
ある程度は原発性骨腫瘍の概略、お分かりいただけたでしょうか?
でも、臨床の現場で最も遭遇するのは、メタ;転移性骨腫瘍 metastatic bone tumorです。
小生が担当した原発性悪性骨腫瘍は
osteosarcoma 3例、ユーイング 1例、骨MFH 1例といったところです。
経験症例は多い方かもしれません。
興味がある方はお読みください。
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